研究概要RESEARCH

ようこそ、流体力学の世界へ

 流体とは,その形を変えながら流動する媒体を指し,その代表例として空気や水が挙げられます.また,歯磨き粉,化粧乳液,ケチャップ,マヨネーズのようなドロドロとした液体も流体の一種であり,これらは我々の生活と密接に関わっています.

流れの状態は,層流と乱流に大きく分類されます.層流とは規則正しく乱れの無い流れの状態のことです.タバコから立ち上る煙を注意深く見ると,タバコの先端からある一定の距離では,整然とした上昇流が発生し,その後,突如として流れが乱れて,急速に煙は周囲に拡散します.後者のような乱れた流れの状態を乱流と呼びます.  

我々の身の回りの流れの多くは乱流です.上述の例のように,乱流状態では,混合が促進される利点があります.我々が日常的に行っている例として,コーヒーにミルクを落として,スプーンでかき混ぜます.カップの中に乱流を作り出して,コーヒーとミルクの混合を促進しているわけです.(もしかき混ぜることなく,分子拡散のみでミルクをカップの隅々まで撹拌するためには,数ヶ月も待たなければなりません!)工学応用では,化学反応器や燃焼器等において,異なる化学物質を目的の割合で混合する際に,乱流が有効に利用されています.

上述のように,乱流は高い混合特性を有する一方,その複雑な運動を維持するために多くのエネルギー消費を伴うという欠点があります.例えば,航空機,車,船舶等の高速移動物体の周囲では乱流が発生し,大きな空気抵抗を生み出しています.また,エネルギー損失が大きいために,本来,乱流の長所である高い混合性能が有効に活用できない例も多く存在します.本研究では,乱流理論,制御理論等の最新の知見を活用することにより,乱流の持つ利点を伸ばしつつ,欠点を抑えるための基礎研究を進めています. 

我々の身の回りでは,空気や水が流れています.水面の揺動,空気中の埃の運動,煙突から出る煙の発達の様子などから,流れのある一側面を観察することはできますが,流体内部の運動を詳細に知ることは困難です.その一方で,流れやそれに付随する熱や物質の輸送を正確に予測したいというニーズがあります.身近な例では,気象現象の予測,大気や建物内における汚染物質,化学物質の拡散予測等が挙げられます.いずれのケースにおいても,限られたセンサー情報を基に,3次元的な流れの状態や熱・物質の分布を推定しなくてはなりません.どの位置で,どのような時間間隔で,どの物理量を計測すれば,最も精度良く流れの状態が予測できるのでしょうか.本研究室では,このような状態推定に関する基礎研究に取り組んでいます.

流体力学の分野では,これまで実験と数値シミュレーションを両輪として,その基盤となる理論の進展,現象の理解が進められてきました.最近では,計算機性能の発展が著しく,様々なエネルギー機器内部の熱流動現象が,計算機で再現できるようになってきました.今後,大きな労力とコストを要する流体実験から,数値シミュレーションに移行する動きは,更に加速すると思われます.

上述のように数値シミュレーションでは,実験に比べて,より少ないコストで詳細な情報が得られますが,単にそれだけでしょうか.膨大な数値データは現象の理解にどう役立つのでしょうか.エネルギー機器の設計や性能向上,最終的には,人々の生活の質の向上にどのように貢献するのでしょうか.今後,数値シミュレーションを通じて,新たな価値の創出が必要とされます. 

我々の研究室では,数値シミュレーションを用いたエネルギー機器の最適設計ツールの開発を進めています.長い年月をかけて生物が進化してきたように,計算機の中でエネルギー機器の最適化設計を行うための方法論を構築しています.多種多様な生物が地球上に存在するように,数値シミュレーションを通じて,直感では思いつかないような新しい機器を提案し,社会に貢献できればと考えています.  

研究テーマ

1.乱流輸送現象の最適制御に関する研究

 乱流は,その複雑な運動を維持するために大きなエネルギー散逸を伴い,航空機,船舶等の高速輸送機器における摩擦抵抗増大の主要因となっています.本研究では,乱流物理に関する基礎的知見,大規模数値シミュレーション,最適制御理論を融合させることによって,革新的な摩擦抵抗低減手法の開発を進めています.また,乱流は,熱や物質の高い混合特性を有しています.従って,多くの熱流体機器では,エネルギー散逸(もしくは,圧力損失)を最小に維持しつつ,熱・物資輸送を飛躍的に高めることが求められます.本研究室では,壁乱流において摩擦抵抗低減と伝熱促進の同時達成に世界で初めて成功する等,乱流輸送現象の新たな制御手法を開発しています.


乱流境界層の抵抗低減制御
左)一様吹き出し制御 中)非制御時 右)体積力制御



壁乱流における伝熱と摩擦抵抗の非相似制御


2.熱流体システムの形状最適化

 熱流体システムにおいて,流体と固体の界面は,伝熱,物質輸送,化学反応等の新たな価値を創出する場であり,界面形状の最適化を通じて,エネルギー機器の高効率化,省エネルギー化に大きく貢献できます.一方,複雑界面は,その形状を記述するパラメータの自由度も大きくなり,最適化には多くの労力を要します.本研究室では,随伴解析を応用することによって,複雑3次元形状の決定論的最適化ツールを開発しています.これによって,多くの試行錯誤を有する従来の設計手法から脱却し,直感に頼らない超多自由度複雑形状の最適化手法の構築を目指しています.

熱交換器内の伝熱面形状の感度解析,および最適化



3.有限のセンサ情報に基づく乱流場の状態推定に関する研究

 大気や海洋中において,汚染物質や有害物質が放出された場合,濃度プリュームは乱流運動によって大きく変形し,その時空間発展は極めて複雑な挙動を示します.熱や物質の拡散現象の予測は,乱流研究における重要な課題であり,現在でも活発な研究が進められています.
 多くの現実のアプリケーションでは,事前に流れ場や放出源の情報が与えられることは稀であり,有限,かつノイズを有するセンサ情報に基づいて,放出源の位置や強度を推定する必要があります.このような逆推定の技術は,災害時における放出源の同定や海底資源探査において,極めて重要です.
 本研究では,変分法とベイズ推定を用いた逆解析アルゴリズムを用いて,ノイズを含むセンサ情報から放出源の推定を行い,推定精度の理論的限界や最適なセンサ配置に関する研究を進めています.更に,移動ロボットに各種センサを搭載することによって,ロボットが自律的に物質放出源を探索するためのアルゴリズムの開発を進めています.


自立型海中ロボットによる海底環境推定の概念図


4.塗布乾燥プロセスにおけるマイクロ・ナノ粒子の自己集積化

燃料電池、太陽電池、リチウムイオン電池の性能は,電極内部のイオン,物質,電子のミクロな輸送現象や電気化学反応によって支配されています.これらの電極は,電極材料となる微粒子を含むスラリーを基板上に塗布乾燥させることによって製作されており,その結果として得られる薄膜の微細構造が電極性能を決定します.塗布乾燥プロセスでは,複数溶媒の蒸発,薄膜流動現象,マランゴニ効果,接触線のダイナミクス等の複雑,且つマルチスケールの現象に支配されており,経験に大きく頼っているのが現状です.本研究室では,薄液膜の生成プロセスの計測とシミュレーションを通じて,現象の理解を深めると共に,自在な制御を目指しています.


塗布乾燥に関わる物理現象,及び粒子の自己集積化




界面輸送工学研究室
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