東京大学生産技術研究所 長谷川研究室

有限のセンサ情報に基づく熱流動場の状態推定

有限のセンサ情報に基づく熱流動場の状態推定

結果から原因を探る「逆解析」の手法により、広域環境における実用的なシステムを検討しています。 大気汚染の発生源を見つけ出すという問題を考えてみましょう。 大気の成分を測定するセンサーを各地に設置します。小さなエリアであればそこにたくさんのセンサーを配置し、濃度勾配を見れば発生源の特定はたやすいのですが、広域で複雑な乱流が発生する実際の環境中では、その方法は非効率です。 

より少ないセンサーで、ノイズの多いデータから正確に発生源を推定するために、私たちは最尤推定 (さいゆうすいてい)の手法を研究しています。 
変分法とベイズ推定という統計学の方法に基づく逆解析アルゴリズムを開発し、推定精度の理論的限界や最適なセンサー配置などを求めます。事例:海底資源の探査 
日本の海底には、ベヨネース海丘(伊豆・小笠原海域)、伊是名海穴(沖縄海域)といった場所で海底熱水鉱床が発見されており、そのエリアにはマグマに熱せられた地下水が噴出しており、それが急速に周囲の海水によって冷却されることにより、貴金属やレアメタルが析出、沈殿しており、日本の重要な資源と考えられています。 
しかし、広大かつ人類から隔離された深海において、得られるセンサ情報量も限られており、新たな熱水鉱床を発見することは容易ではありません。
そこで、センサーを搭載した自立型ロボットを用いて、海中を移動しながら測定・探査する方法を研究しています。(東大生研・巻研究室と共同研究)
将来的には、流速、温度、濃度センサを搭載した探査ロボットを複数投入し、海底に設置されたステーションで得られる観測データから、海水の流れ、海水温度、化学物質濃度などの3次元分布、およびその時間発展を逆推定します。 
さらに、逆解析の結果をもとにロボットは、より流れや物質濃度の状態を観測しやすい位置へ移動。測定と移動を繰り返して効率よく発生源を発見することを目指しています。 
この方法は、大気であればドローンにセンサーをつけて飛ばしたり、地上であれば自走式ロボットを用いたりと、環境や流体に応じて様々な応用が可能。近年、IoTの発展とともに、環境中に様々なセンサ情報が得られるようになりつつあります。これらの情報を統合し、環境状態を推定する新しいサービスやビジネスの創出につながれば、と考えています。

                                                    



ランダムに配置されたセンサ情報に基づく乱流場の再構築
左) 正解場 右)センサ情報をシミュレーションに取り込むことにより推定された乱流場
右図の黄色い点はランダムなセンサ位置を表し、センサの数が増えるに従って、推定場が正解場へ近く様子が分かる。
Reference: Suzuki & Hasegawa, J. Fluid Mech. (2017), Liu & Hasegawa (2020)


乱流環境中における限られたセンサ情報に基づくスカラー源推定
(左)順解析、(右)随伴解析
Reference: Cerizza et al. (Flow Turb. Comb., 2016), Wang et al. (J. Fluid Mech., 2019)

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